★セリュー日記 11月★

 


●2001年11月

・「見おさめ」

 ついに、というか、その日はやってきた。セリューの去勢の日である。
 実は、結構、悩んだ。ブリードするというつもりはないのだけれど
 セリューという猫が、この一代で終わってしまう事を考えると
 今まで生きてきて、何度も飼っている動物たちとの死別に立ち会っている身としては
 どーにも、ツライからである。
 せめて、セリューの子供がいれば、その時の悲しさは半減するかもしれないと思うからだ。
 そんな意識が、私を悩ませていたのだった。
 でも、命への責任というものも、ある。
 自分の一時の感情のために、命を扱うなんて、しちゃいけないと思うから。
 もちろん、産ませたりとかしたら、絶対的な責任は負うけれども。
 いろいろと考えはしたけれども、結局、去勢することにした。

 病院に電話をして、確認する。
 と、日帰りだと思っていた私に、一泊のお言葉。
 ひえー。まるまる一日も、セリューと離れるのぉ?
 セリューが寂しがりはしないか、と思ったが、それよりも何よりも、私が寂しい。
 セリュー自身の心は、人間が勝手に想像するだけだし、自分の言い訳にも聞こえてしまう。
 でも、麻酔や、感染などの経緯を見るには、入院の方がいいので、承諾した。
 ついでに、ライフチップもお願いした。

 当日まで、1週間。前にも書いたが、悩まなかった訳ではない。
 でも、その日はやってくる。

 前の日の夜食は、あげてはいけないと言われた。
 その日のお水も、6時にはひきあげてしまってくれと。

 お腹が空いたら、かわいそうだよぉ。
 でも、お医者さんから言われたことは、守らねば。
 胃の内容物に関しては、麻酔と関係するからだ。
 でもでも、やっぱり、お腹が空いたら、せつない。
 仕方がないので、夕ご飯をたっぷりとあげた(笑)
 ご飯を食べている時に、なでてあげていると、なくなるまで、いつまででも食べていたりする。
 これを利用(笑) させてもらった。
 夕ご飯をあげる時、食べきるまで、なでていた(笑)
 当のセリューはというと、「まだ、なででくれるの?」
 と、甘ったれてご飯を食べている。
 ううう。真意はちがうんだよー。
 そして、夜はいつもなら出しっぱなしのカリカリも、
 なんとなく心がちくちくしながらも、冷蔵庫へ隠した。

 朝6時。言われたとおりに起きて、水をしまう。
 お風呂場に、置いてあるのも、しまう。
 私がなんとなく、わさわさしているせいか、セリューもどことなく、何かを感じている様子。
 そして、時間が来たので、キャリーを出して、入りたがらないセリューを押しこんだ。
 お気に入りのおもちゃをひとつ入れて。

 余談だが、セリューは現在5kgある。キャリーに入れる時も、ふわふわの毛がたたってか
 ぱんぱんのように見える。見事なしっぽは、ぐいぐいといれてやらないとはみ出してしまう。
 むむう。あのキャリーは、8kgまでだからまだ大丈夫だとは思うけれど…。
 やっぱり、大型猫なんだなぁと思うこのごろであった。

 車を飛ばして、病院へ向かう。その日は、雨が降っていた。
 温かい雨だったが、なんとなく、よけいにブルーになった。

 病院について、署名する。
 「じゃ、おあずかりしますー」
 ひょいとキャリーを預かる助手さん。
 あうあうあう。いろんな想いで、金縛りになってしまう。
 セリューは、運ばれるキャリーの透明部分に顔を押しつけ、まんまるな目をして、私をみつめる。
 体中に泡がつまった感じになってしまった。
 「あの、あの、よろしくおねがいします、よろしくお願いしますー(泣)」
 どうにかそれだけ言って、動きたがらない足を持ち上げ、病院を出た。

 雨が、体の中にまでしみこむ。
 車で帰るのだから、運転には注意しなくてはいけない。雨だし。
 明日迎えの時間になっても、私が来られない状況になっちゃいけないもの。
 でも、運転しながら、体は操り人形のようにこころもとなかった。

 家に帰ってきて、セリューのいない一日を過ごす。
 結構、部屋の中に猫が常にいるという状況になれてきたので、
 セリューは空気のような存在になっていた。
 でも、空気がないと、人は生きられないのよ。
 あうあうあう。と言いながら、むやみに部屋をうろついたり。
 セリューを連れて行く前に残したトイレのうんちも、片づけられなかったり。
 結局、まともに仕事できなかった。

 小用で外に出る時も、いつもならセリューの所在を気にするのだが
 「あ…今はいないんだっけ…。外に出ちゃう心配もしなくていいんだ。」
 と、安堵と空虚がまざったような気分になった。

 夜も、なんとなく、寝られなかった。病院に電話した時は、手術の成功も聞いたし
 何かあった時は、病院にいた方が安心だし。
 でも、なんか、どこかにからっぽが詰まっているような気分だ。
 まあ、その前の日も寝ていなかったこともあってか、ベッドに入っていたらいつの間にか、寝てしまっていた。

 次の日、やけに早く目が覚めて、セリューを迎えにいく準備をした。
 セリュー用のご飯の準備も、する。
 じりじりと、TVの時間表示をながめ、車に乗って、飛び出す。

 病院に着くと、セリューは、まだケージの中にいた。
 出してもらって、キャリーを受けとり、セリューをだっこする。
 診察室の台がいやなのか、セリューは、私の肩に爪を出してはりついた。
 前はこんな事無かったのにな。やっぱ、イヤだったんだろうな。
 セリューをだっこしながら、ライフチップの話を院長先生から、聞く。
 「セリュー君は、首輪していなんですね」
 「あ、あの、首の回りの毛で、苦しそうで…」
 ライフチップの普及は、実際、まだまだであるとお話しを聞いた。
 今、もし、いなくなったら、一番の有効が首輪なのだと。
 そして、首輪にライフチップが入っていますの札をつけるのがいいと。
 ううう。もちろん、わかっていますよぉー。来年になったら、また、つけますですー(泣)
 でも、とりあえず、ライフチップが入ったことで、なんとなく、一安心な気持ちは、ある。
 話しているあいだも、セリューは落ち着かないので、キャリーを開けたら
 中に飛び込んだ。私よりも、キャリーがいいのか?(笑)
 でも、それは家に早く帰りたいという意思表示なんだろうな。
 抜糸とかがあって、また来なくちゃいけないのかな。と聞いてみると
 傷口は縫っていない、とのこと。
 男の子の場合は、入っていたモノがなくなると、しぼむので、
 当然傷口も小さくなる。縫うと、よけいに気にしてなめてしまい、そこから感染症に
 なってしまう可能性があるから。と。

 ライフチップの説明も聞いた。機械での読み込みも見せてもらった。
 ハンドタイプのバーコードの読みとり装置のちょっとでっかいようなヤツで
 セリューの首回りをかざすと、英数字が出てくる。
 これが、セリューの登録番号なのだ。内容が書かれている用紙も、もらった。
 国籍も、入っている。
 チップはどこにあるのかと、手で触り倒したが、毛が深いせいもあってか
 見つけられなかった。本当に、小さいものだったこともあるからかもしれない。

 薬をもらい、精算をすませて、車に乗る。
 車の中では、いつもよりも、多く鳴いたような気がする。
 人間の勝手な想像だが、私には、なんとなく
 「早く帰ろうよー帰りたいよぉー」
 そんな風に聞こえた。

 家について、ご飯を出してしまっていたことに気がついた。
 セリューの事を考えてだったのだが、むかえに行った時間が早かったこともあって
 その日は、まだ薬をあげていないとのことだったのだ。
 私があげなくてはいけない。
 急いで、缶詰ごはんに、薬をまぜた。
 ああ、でも、量が多いから、いっぺんには食べないよー(泣)
 まあ、そのうち、食べ切っちゃうだろうな。
 セリューはというと、ささっと家の匂いを嗅ぐと、ご飯にまっしぐら。
 缶詰を食べ、カリカリを食べ、これでもかと水を飲む。
 少し落ち着くと、トイレに走り、用を足した。
 そして、また、ご飯を食べる。
 そんなセリューの姿にちょっと不憫さを感じていたけれど、なんとなく、浮いていた物が
 戻ってきたような気がした。




・「その後」
 病院に一泊した猫は、よそよそしくなるか、甘ったれになるか、どっちかだよー。
 と、話には聞いていた。
 セリューは、どっちになるかな。と、様子を見ていたが、匂いを嗅いだり食べたり出したりに
 急がしくて、そんな様子が見られない。
 しかも、トイレのうんちが、べちょっと柔らかいのだ。
 長毛種は、こういううんちをすると、お尻の毛のまわりに、つく。
 セリューも、例外ではない。お尻の毛は少し刈られているとは言っても、他がスゴイから。
 トイレから出てきたセリューは、座った姿のまま、前進している。
 妙に笑える姿だけれども、今まで犬猫と暮らしてきたことのある私は、
 速攻で、柔らかうんちのせいだと思った。
 セリューを抱き起こし、ひっくり返すと思いっきりくっついていた。
 ぎゃぁ。幸い、毛のおかげで床にはくっついていなかったけれど、
 急いで、ふき取る。でも、なかなか毛の中に入ったのが、とれない。
 それでも、なんとかふき取った。

 「寂しかったんだよぉーん」
 なんて甘ったれを期待してた私が甘かった(笑)
 セリューは家の中をとびまわり、忙しかった。
 まあ、名前がセリューだもんね。
 名は体を表すというか、私がこの猫を見た時に“セリュー”という名前を付けたのも
 私の直感から来る物だったのだろう。
 なにせ、私は直感師(笑)。占い師でも、予言師でもないけれど
 私の直感はよくあたるので、自称、「直感師」なのだ(笑)
 セリューの名も、性格を考えると、ぴったりだ(笑)
 素直でない甘え方なんて、その通りだもんね(笑)

 なので、帰ってきてからも、普段通りに接しようと私は思った。
 その方が、セリューも安心するかな。と。
 普段通りにご飯をあげて、(薬だけは普段と違うけれど(笑))
 普段通りに、仕事をして…。
 夜、仕事が一段落して、セリューにも夜食をあげようとした時、
 床にてんてんと足跡がついているのを見た。

 …もしや。

 直感は当たっていた。トイレを見ると、踏んで、はねとばされたモノがてんてんてん。
 あああー。やられたぁー。
 しかも、今は寒いからじゅうたんがしいてあるというのにー。
 側にいたセリューをひっつかんで、足を見るとそこはなめてしまったのか、かすかに
 白い毛は色づいてはいるけれど、すでにきれいになっている。
 でも、とりあえず原因である足を拭いてから、トイレをきれいにする。
 てんてんとついてしまった足跡は、アルコールでふき取る。
 最近は、ご家庭用除菌アルコールが手軽に売っているから、いいかもー(爆)
 色が濃くついている所は、すぐわかるけれども、床が茶色だと、わかりづらい。
 セリューの歩幅を推測して、灯りの照り返しをたよりに、お掃除お掃除。
 うんちの掃除とかは全然苦にはならないけれども、
 セリューのお腹の調子は、ちょっと気になる。
 食事抜きや、精神的なものが原因だと思うけれども、これが続いたら、再び病院かなと
 思っていた。
 でも、、2日も経つと、元に戻った。

 下腹部の毛は剃られて、やけにシンボルが目立つ。セリューはそこだけ毛が黒いってのも
 あるかもしれないけれど。
 今は入っていない袋は、少し縮んできたように見える。傷も、目立たない。
 そられた毛の部分は、いつもと違う感触を楽しんでいる。
 まるで、五分刈りの人の頭を、なでるように。
 (楽しいんだよね、気持ちよくて(笑))
 ヘアレスキャットのスフィンクスって、こんな感じなのかな。と思ったり。
 毛が生えそろうには、まだ時間がかかるだろうけれど、
 来年の夏は、刈っちゃうんだろうし(笑)
 なんとなく、この時期は寒そうだなぁとか思うけれど、本猫は気にしていないみたい。
 他の毛で、充分温かいのかもね。





・「甘えてる?」
 セリューの甘えは、素直じゃない。
 それは今に始まった事じゃないけれど(笑)
 一泊入院から帰ってきてからも、同じだった。
 ただ、少しだけ、傍らにいる時間が増えているような気がする。

 コタツを出してから、巨大セリューホイホイとか言って遊んでたり。
 でも、中にセリューがいると、電気を入れられなくて寒かったりとかするけれど
 セリューが入っていない時は、電気をつけて人間が、まるまって入る。
 私がご飯を食べながらTVを見ていると、太股にどすっとした感触が。
 見ると、セリューがくっついている。そして、ふみふみをしているのだ。
 ゴロゴロとのどを鳴らし、瞬まくが見えている状態のセリュー。
 これは、なでてあげようかナーなんて思うと、そこは素直じゃないのだ。
 なでると、立ち去ってしまう。
 でも、またしばらくすると、どかっととなりに座って、ふみふみする。
 素直じゃないなぁー(笑)

 でも、そんなセリューがたまにみせる、「あの、だっこしてほしいんですけど…」
 と、言っているような姿は、たまらない(笑)
 少し上目遣いで、お座りした状態で、遠慮しいしい、手を私にかけるのだ。
 何か欲しい時の「ちょーだい」とは、全然違う。
 ほっとくと、哀しげな後ろ姿で立ち去るのだが
 たいてい、負けて、時間がなくても、だっこしてしまう(笑)

 親の欲目かもしれないけれども、少しだけ、ほんの少しだけ
 セリューの「だっこして欲しいんですけど…」
 が、増えたような気がする。ふふふふ。嬉しいぞ。
 でも、重いんだよね。正座していなくても、手足がしびれるのよ。
 これは、鍛えなくては。