★セリュー日記8月★


●2001年8月その1

・「超ショック☆!!」

 今日は、朝から涼しかった。
 なので、クーラーなしで、網戸にしていた。
 セリューも、なんだか網戸にへばりついて、外を見たり、きもちよさそうに寝そべって風をうけている。
 ああ。平和な一日だなぁ…そう思っていた。

 夕方、6:30頃。
 フギャァァ!! ギャアオギャオ!!
 猫のケンカの声だ。近い。
 また、近所の猫同士がケンカをしているのかと思った。
 でも、声が本当に近かったので、セリューが心細くなっていないかと心配になり
 様子を見に行った。
 今日は、曇り。灯りのついていない部屋は、この時間、少し薄暗い。
 見ると、網戸が開いている。
 その前に、セリューくらいの猫が。しかも、色も黒っぽい。
 私は、瞬間、どろぼうか何かが網戸を開けて侵入し、セリューが外へ行こうと
 しているのかと思った。
 「セリュー?!!」
 あわてて駆け寄る。が、その猫は私の顔を一瞥すると、するっと網戸をくぐり抜けた。
 「セリュー!! セリュー!!」
 あわてふためいて、呼ぶ。しかし、その猫は外へ行くと、どこかへ走って行ってしまった。
 『やばい!! セリューが外に出てしまった!!』
 でも、私が呼ぶといつもくるのに、来なかった。 どうして?!
 思いながら追いかけようと、ふり返って部屋の状況に気がついた。

 部屋には、無数の抜け毛の固まり。
 この部屋で、ケンカが行われたのは、あきらかだった。
 心臓が熱くなるのと逆に、頭がすうっと冷たくなった。
 ふらふらとする足に気合いをいれながら玄関へ行こうとすると
 「ふーううう。ふーうううう…」
 猫のうなる声がする。
 見ると、まだ空のカラーボックスの棚の中に、セリューが縮こまって入っていた。
 「セリュー!」
 あわてて、近くへ行くが、私にもうなり声をあげる。ぷちっといってしまった状態だ。
 すぐには抱き上げるのは無理と思い、飛び抜けて出ていきそうな心臓を抑えながら
 部屋に落ちる抜け毛を、拾った。セリューの毛も、もちろんあるが
 短毛種の、黒っぽい毛がてんてんと落ちている。

 最近引っ越してきたばかりの場所だが、うろうろとうろつく猫を見かけていた。
 首輪は、ない。毛づやはいいので、半ノラか、何かかもしれない。
 その猫の毛色だった。

 抜け毛は、セリューより、その猫の方が多かったように思える。
 しかし、ボックスの中でうなっているセリューの姿と
 部屋からは走りさらなかった猫の姿を考えると、勝敗は歴然だった。

 当たり前だ。
 セリューは、四ヶ月。人間で言うと、8才のお子様だ。
 体格だけは大きいかもしれないけれど、8才の子が、
 いきなり大人に「うらぁ!」とケンカを売られたら、負けるに決まってる。

 ぽろぽろと、涙が出た。

 私がいながら、なんてことになってしまったのか! 自責の念に押しつぶされる。
 仕事部屋から、猫部屋まではちょろちょろと行くのに。
 網戸を補強しなくては、なんて思っていた矢先だ。
 しかし、よその猫が網戸をあけて侵入してくるなんて、夢にも思わなかった。

 セリューの声が収まったので、カラーボックスからひきずりだし、だっこをした。
 いつもはすぐに逃げるセリューが、おとなしくだっこされている。
 かわいそうに。さぞかし、怖かったろうに!

 背中を見ると、ぬれていた。嗅ぐと、よだれの匂いがした。
 人が、歯磨きをせずに一日過ごしたような匂いだ。クサイ。
 噛まれたのか?!
 必死になって、ケガの有無を確認した。
 その時は気が動転していたこともあってか、ケガは見つからなかった。

 とりあえず、タオルをぬらしてよだれをふいたが、なかなかとれない。
 私は、いてもたってもいられなくなり、母や早紀さんに電話した。

 母は、激怒した。これには、前猫、愛するタマが野良猫とケンカをして
 ウィルスをうつされ、亡くなったからということもある。
 しかも、母の近所では、野良猫にのど笛をかみ切られて大けがをした飼い猫もいる。
 ましてや、セリューはまだほんの子供だ。
 私は、今はまだ動転しているので、怒りにならないが、母の怒りは天を貫いていた。
 一方、早紀さんは、大丈夫だから、と、私を落ち着かせてくれた。
 まだ、よだれは取りきっていなかったのだ。
 「はやく、そこだけ洗ってあげて、ね。」

 私は、電話を、事務所部屋でしていた。もちろん、セリューはだっこして連れてきたが
 たたっと降りて、ラックの下に入っていた。
 座りこむが、目は半開きにしている。
 眠たいけれど、敵(セリューにとって)が来たら、すぐに対応できるようにだろう。
 大丈夫よ、セリュー。
 私が言っても、恐怖を体験したセリューは、すぐには収まらない。
 とてつもなく、心がいたい。

 早紀さんとの電話を切ったころには、すでにセリューはなめてしまっていたが、
 台所へ連れて行き、洗った。
 いつもなら、必死で嫌がるのに、抵抗しないセリュー。本当に怖かったのだ。
 私にだっこされて、少し落ち着いたのかもしれないが、洗われてまた少し興奮したかもしれない。

 セリューの背中を拭き、気の済むまでだっこをしていた。
 しばらくすると、だっこから逃げ、部屋の匂いを嗅ぎまくった。
 その目は、見開き、警戒するかのように。
 私は、自分の使っているボディソープを薄めて、ぞうきんにひたし、部屋中を拭いた。
 ゴシゴシと、ふきまくった。
 なんで、どうして?と涙をぽろぽろ流しながら。

 セリューが、トイレに向かったので、私は、きっとたぶん、そのよそ猫に口をつけられたであろう
 ご飯を、捨て、キレイに洗い、新しいのを用意した。
 セリューは、おしっこの時はあまり砂をかけない。それが、異常と思えるほど
 念入りに念入りに、砂をかけていた。敵に自分の匂いが見つからないように、とでもしてるかのように。
 その後、うんちもした。その念入りさは、言うまでもない。

 私は、ごはんを置く前に、ケージもアルコールを薄めた物で拭きまくった。
 そして、ごはんを置く。いつものぺたりとすわって甘ったれで食べる姿は、見られない。
 かわいそうに、こわかったろうに…。と、背中をなでながら、
 もしかしたら、と、思い、毛をかきわけて傷を探した。
 セリューはダブルコートもあるから、大変だ。
 すると、ぽちっと、歯がはいったような小さい傷がひとつみつかった。
 (もしかしたら、他にもあったかもしれないが、私にはみつけられなかった)
 皮膚に、うすーく小さくピンクの傷があり、これまた薄く、リンパ液と血液がまざってピンクになったものが固まっている。
 さーっと血の気がひく。
 もしかしたら、これで何か病気がうつされているかもしれない。
 急いで、ヨードチンキを取り出した。しかし、その間に傷がどこかわからなくなってしまい
 また探すのに、10分以上もかかった。そして、綿棒でちちっとぬる。
 セリューは、別段しみて痛いという感じはなかった。
 だが、私の心の中には、「病気」の二文字がぐるぐるしている。
 もう、獣医さんは終わっている時間だ。
 ケガの云々より、病気を心配しているので、緊急夜間につれていってもすぐにはわからないだろう。

 セリューが少し落ち着いてきたので、夜遅くまでやっているスーパーへ
 車を出し、網戸の固定鍵と、木作酢を買ってきた。
 網戸を固定している際、セリューは、また何か、という感じで網戸の匂いを嗅いでいる。
 せつない。しばらくは、窓を閉めきろう。涼しくとも、クーラーにしよう。泣きながら、思った。

 近所の獣医は少し信用が薄くなってしまったので、タマがお世話になった獣医に
 明日、電話して状況を聞き、その如何によっては連れて行こうと思う。
 ケガをしているのは、事実だし。
 ああ、でも、まだキャリーを買っていない。
 明日、電話してから、キャリーを買い、それから行こう。
 昨日のチャットで、キャリーを買った方がいいね!なんて話をしていた矢先だ。

 セリューは、まだ、くつろいだ状態でねそべらない。
 当たり前といえば、当たり前なのだが、悲しくて悔しくてたまらない。
 せめてもの救いは、大けがしなかったことだ。
 これが、普通の猫の4ヶ月の大きさだったと思うと、ぞっとする。
 もしかしたら、食い殺されていたかもしれないからだ。
 しかも、負けたかもしれないにしろ、一矢報いたことは、ちらばる毛をみてもわかる。
 よくがんばったね、えらかったね。こわかっただろうに…
 ごめんねぇー。私がいながら、なんてことに…。
 ああ。書いていても、涙が出る。




・「とりあえず…」


 朝、起きてセリューを見る。
 まだ夜はケージに入れている。でも、昨日はやはり心配だったのと
 セリューが心細いかと思い、猫部屋から寝室へ、ケージを持ってきた。
 そして、部屋は閉めきったが、ケージは開けておいた。
 セリューは、ずっと私のベッドの下へ潜り込んで、寝ていた。
 やはり、安心するのだろう。

 セリューの様子を確認すると、普段よりは食欲は少ないものの
 食べ、出し、いつものようにだっこを逃げたりしている。
 とりあえずぐったりしている様子はなかったのだが
 獣医さんに電話をした。
 前にも書いてあるが、タマがお世話になった所だ。

 「あの、猫を飼っているのですが…」
 いろいろと、説明をする。ケガはたいしたことはない。しかしウィルスが気になる
 タマをウィルスで亡くしている云々を。
 電話で応対してくれた受付(たぶん)のお姉さんは、とてもこまやかに
 私の説明を聞いてくれ、そして、いろいろ説明してくれた。
 「ケガは小さくても、噛みキズだと深い場合がありますから、化膿が心配ですね」
 あうううう。やはり、連れて行くことにした。
 「すみません、まだ、キャリーがないので、キャリーを買ってから、すぐに行きます!!」

 電話を置き、財布を確認する。ああ、心もとない。
 セリューに、「すぐ、帰ってくるからね!」
 と一言つげ、車に飛び乗る。
 銀行へ行き、ショップへ行って、かねてから目をつけていたキャリーを買い込む。
 上ぶたが、がぼっと開いて、そのふたが透明になっているもの。
 プラスチックだが、編んでいるような感じでカゴのようにも、肩からも下げられる。

 家に帰って、箱を置くと興味ありげにセリューが寄ってくる。
 キャリーを出すと、狭いからかまだキャリーとわかっていないからか
 中に入り込んで、しいてあるカーペットののようなもので遊んでいる。
 チャンスだ。
 いつものカバンにセリューグッズをつめこみ、キャリーの中にネズミのおもちゃを転がして
 そのまま蓋をし、車に乗る。

 キャリーでの移動は、あまり鳴かないが、車に乗ると、鳴く。
 それでも、顔がみえるせいか、前よりは鳴き叫ばなかった。少し私がほっとする。

 獣医さんに、先客はいなかった。
 「先ほどお電話さしあげた者ですが…」
 タマはかかったことがあったが、セリューは初診なので問診票や住所を書き、待つ。
 「あの、タマちゃんはその後どうされました?」
 受付のお姉さんがやさしく私に聞く。
 「ここで、診て頂きましたが…その後、亡くなりました」
 「まあ、そうだったんですか…」
 カルテをみながら、お姉さんは言った。
 「ああ、すみません、今でもタマのことを話すと、涙が出ちゃうんです」
 鼻声で私が言うと、お姉さんは「ああ、ごめんなさいね」と謝ってくれた。
 いえ。謝らなくても全然いいんですよぉ。と思いながら、その気遣いに私の心がとける。

 「セリューさん」
 呼ばれて、診察室へ。
 獣医さんは、私と同じくらいか、それともふけ顔で、本当はもっと若いのかもしれないけど
 私くらいに見える丸顔の男の人だった。
 「野良とおぼしき猫がが入ってきて、ケンカしたんだって?」
 電話での内容をすでに聞いているのか、事情を確認してくれる。
 「網戸をあけて、侵入し来て…」
 私は、再び説明を繰り返した。何度も話していると、恐怖でかたまった心がほどけていく。
 獣医さんは、私の説明にいちいち頷き、答えてくれる。そして、体を確認しながら言った。
 「四ヶ月ですか? 大きいですねぇ。体重を計ってみましょう。おお、3kgジャストだ」
 成猫でも、このぐらいのサイズのものがいる。セリューは本当に大きな猫だ。
 ひとしきり、猫サイズの話をしながら、獣医さんはセリューの傷を探した。
 「噛まれたのは、どのへんですか?」
 獣医さんと私とふたりで、傷があろう付近を毛をかきわけ、わさわさと探す。
 でも、昨日10分以上かけて探した傷は、なかなか見つからない。
 「傷は、どんな感じでしたか? 血が出ていましたか?」
 細かく、説明する。ヨーチンをぬったことも。
 獣医さんは、化膿していないかどうか、詳しくさわり、体温を測った。
 わかっていたけど、体温計をおしりにぷつっ。
 セリューが、びくっとする。ちょっとのガマンだぞ。
 体温は、8.9度。熱はないですねぇと獣医さんは言った。
 傷が、これから化膿してくるかもしれないということなので、抗生物質を注射する。
 注射の針が抜ける時だけ、セリューは少し、ニャァ、と言った。
 「お、痛かったかぁ。でも、もう、大丈夫だからなぁ」
 獣医さんが、セリューに話しかける。
 そして、同じく抗生物質の粉薬をだしますから、と言われた。
 「缶詰に混ぜてあげるか、でも、猫は敏感だから、食べないかも…。
 そしたら、いやがるかもしれないけど、溶かしてスポイトで口の端からちゅーってあげてみてください。
 スポイトも、出しますから」
 そして、ずっと懸念しているウィルスの事を再びきいた。
 「こればっかりは、わかりません。野良猫でも、病気にかかっているもの、かかっていないものもいますし…」
 確かに、猫BBSで助言を頂いたように、ウィルスの状態は
 いますぐには、わからないだろう。私も、それはわかっている。
 そして、ついでにノミの話も聞いた。
 今は、抗生物質を与えているから、ノミ駆除の薬はやめた方がいいと言われた。
 ショップで売っている薬でも、時間はかかるが駆除はできるから、と。
 「もし、傷跡の毛が盛り上がるようなことになって、体液がそこににじむようになったら
 すぐに、また連れてきてください。抗生剤をあげているから、大丈夫だとは思いますが。
 あ。薬は、ちゃんとあげてくださいね」
 ウィルスに対する心配は残しながらも、きちんと話を聞いてくれて、
 セリューにも話しかけてくれる獣医さんの対応に、私は少し落ち着いた。

 診察室を出ると、母が来ていた。
 心配になって、来てくれたのだ。ありがたい。
 獣医さんから聞いた説明を、また母に説明し、薬をもらって、精算した。
 明細を見ると、「再診」となっていた。タマはかかったことはあるが
 私も、セリューも初めてなはずなのに。なんて良心的な医院だろう。
 こんどから、少しだけ遠いけれども、この獣医さんにしよう。(車で、時間がかかっても15分)
 ケガのこうみょうだ。ふう。
 とりあえず、実家へいき、実家でセリューを放した。もちろん、窓・扉閉めきって。
 セリューは神妙な顔をして匂いをかぎまわっている。
 そのうち、何かをカサカサしだした。父が置いた、開いている鰹節パックだった。
 その時、母に頼んで小皿を出してもらい、水とカリカリは出していたが口をつけなかった。
 カサカサカサ、とじゃれながら噛みついている。
 鰹節なら、食べるかもしれない。
 皿に出したら、はぐはぐと食べ出した。
 鼻に、ヒゲに鰹節をまきちらかしながら、食べている。
 『しあわせの…』とかいてあったどこぞのCM画像のようだ。
 ひとしきり食べると、毛繕いをし、狭いところへ行ったり、ぶら下がっている物にじゃれたりしていた。
 安心したのかな。
 セリューの落ち着いた姿とはうらはらに、母があわただしくなった。
 カメラをほじくり出し、セリューに向ける。ぱしぱしと、フラッシュが光った。
 猫の写真って、取り出すときりがないんだよねぇー。
 母と、笑いながらセリューを見る。そんな様子が、さらに私を落ち着かせてくれた。

 薬を確認する。あ。スポイトが入っていない。
 獣医さんまで取りに行ってもいいけど、近場に100円ショップがあるので、
 母にセリューを頼み、車で出る。

 100円ショップは、まるで小さなおもちゃ箱のようにいろんなものがある。
 私の好きな店のひとつだ。ふらふらと、ペットグッズの所へ行っておもちゃを買ったり
 文具を買ったりして、帰ってきた。
 そして、肝心のスポイトを忘れていた。まだ、どこか気持ちがうわっついているのかもしれない。
 まあ、とりあえず帰りでも、帰ってからでもなんとかなるか、と思い、
 セリューにスイカやモモをあげて楽しみ、帰路についた。

 家に帰って、今日はまだ自分が何も食事していないことに気づく。
 とりあえず、パスタをゆで、ふりかけて味を付けるものを混ぜ、母からもらった
 ピラフのおにぎりにパクついた。
 本当は、セリューにもごはんをあげたかったのだけれど
 さっき鰹節を一パック食べてしまっているし、
 後で缶詰ご飯に薬を混ぜた時にお腹がいっぱいではこまるかな、と思い
 少しだけ、待ってもらうことにした。
 牛乳を少しあげたのだが、いつもならなめきってしまう量でも、少し残している。
 まだ、安心はできないかもしれない。

 そんなことを考えていたら、早紀さんから、電話を頂いた。
 私の声の明るさに、早紀さんは安心したようだった。
 猫話に、花が咲く。とても楽しい時間だった。
 話をしている時に、薬のあげかたが他にもあると教えて頂いた。
 薬をバターに混ぜ、口の内側にぬりつけるという方法。
 セリューは、駆虫薬をあげたときもするっと飲んでしまったので、
 もしかしたら、ご飯に混ぜてという方法でもいけるかも、と思い
 電話をしながら缶詰を少し出し、薬を混ぜてあげてみた。
 はくはくはく。
 「なんだか、全部食べちゃいました。」
 「まー。セリュー君は、手がかからなくて、いいわねぇ!」
 早紀さんと、また話しが続く。
 猫の病気の話、フードの話、庭木の話…もろもろもろ。
 気がつくと、時間がだいぶ過ぎていた。
 この電話は、早紀さんから頂いたものだから、電話代が申し訳ない。
 で、切ろうとするのだが、また話がはずんでしまったりする。
 本当に、近所だったらお茶を飲みながらお話しできるのに。でも、仕事にならないか(笑)
 とりあえず、本当に申し訳ないので、電話を切り、セリューの様子を見る。
 まだ、お腹をだして前のようにでろーんと寝ることはしない。
 スフィンクスのような姿で、顔をあげたまま、いつでも動けるように寝ていたりする。
 考えてもみてほしい。
 親に育てられている、心から安息できる場所に
 敵意を持った侵入者がやってきたのだ。
 親は一足遅れてやってきてはくれたが、その時の恐怖感は甚大だろう。
 人間でも、家に泥棒が入った後や事件が身におきた後などは、
 精神的に立ち直るまでに時間がかかるという。
 セリューの、私への信頼感は、また最初からやりなおしかもしれない。
 こればかりは起こってしまったことをなげいても始まらないので
 今、これから自分ができることすべてをしてあげようと思う。
 とりあえず、カリカリはソリッドを探して買ってこよう。

 早紀さんも、母も言っていたが、
 セリューにもダメージはあるとは思うけど、私の精神的ダメージが
 一番大きいかもしれない、と。
 確かに、そうかもしれない。セリューの事を考えると、またその時自分がいながらという自責とで、
 ぐるぐるぐちゃぐちゃになっていた。
 でも、新しい獣医さんのいい感じや、母や早紀さんの言葉に支えられ
 なんとか、落ち着いてきた。
 本当に、この場を借りて感謝いたします。
 また、ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。

 でも、懸念がすべて取り除けた訳ではない。
 まだ、ウィルス感染しているかどうかの問題が、残っている。
 こればかりは、今はどうしようもない。
 あと一ヶ月ぐらい過ぎたら、また獣医さんへ行って
 血液検査をしてもらおう。
 その後の対応は、それからだ。
 今は、私がしっかりしなくては。


・「それから…」

 あの事件から、だいぶ時間がたった。
 セリューは、あっという間に元気になってしまっている。
 当日、片時も私から離れず、寝るときも私のベッド下から出てこなかった
 あの姿は、今はいずこ?といった様子だ。
 でも、少しだけ、私への信頼感が厚くなったような気がする。
 なんとなく、私が感じるだけかもしれないけれど。
 セリューの見つめる目が、深くなったような感じがするのだ。

 ある日、セリューのブラッシングをしていた。
 いつまでもゴロゴロいっていたので、丁寧に、丁寧にしていた。
 クシに、どんどん、長い毛がたまっていく。
 最後にまとめてとるのが、これがまた、快感(笑)
 セリューが飽きて立ち去った後、毛玉の様になっているクシを、見た。
 何か、毛と違うものがある。
 なんだろうと、絡まる毛をほぐしながら、つまみだした。
 …かさぶただった。2つ。
 青黒く重たいものが、私の心にのしかかり、目の前を暗くする。
 二カ所も、噛まれていたのか! あのとき、見つけられなかったけど
 やはり、他にも噛まれていたんだ…。
 悔しさと、悲しさがよみがえってきた。
 しかし、今更なにを言ってもはじまらないと、我が心を浮上させる。
 まだ、かまれたことによるウィルス状況は、わからない。
 1・2ヶ月以上経たないと、血液検査しても出ないからだ。
 一抹の不安は残る。毎日、セリューの体の状況をチェック。
 熱は…口、お尻、体の臭いは…食欲の様子、排泄物の様子…
 今までも、もちろんチェックしていたが、さらに目を厳しくして。
 当のセリューは、毎日元気に遊び、食べて、寝る。
 この夏で、さらに体がでかくなったセリュー。
 何事もないことを、祈るばかりである。




「すりすり」

 セリューが、どこかで遊んでいる。
 私はご飯を食べながら、本を読んでいた。
 すると、ずだだだだっと走ってくる音。
 セリューがどこからか、私のいる部屋に向かってきているのだ。
 なーにをやってんだか。と、私は思った。
 最近は猫のいる生活になれてきたせいか、余裕である(笑)
 すると、私のそばで急ブレーキをかけ、持っている本のにおいを
 くんくんかぎ、私の手や足に頭をこすりつける。
 ぐるぐるいいながら。
 おお、すりすりだ!
 この、素直でない性格のセリューが、すりすりをしたぞ!
 なんだか、うれしくなって心があつくなった。
 それから、台所でご飯を作っているときにも
 たまに、足の間をすりぬけながらすりすりし、私の顔を見つめる。
 鳴かないで、じっと見つめる姿というのは、なんだか心にしみる。
 すりすりできるようになったのだったら、
 こんどは座ってると膝に自分から乗ってきてくれるようにならないかな…
 やっぱり、素直じゃないから、むりかな…?(笑)




・「ぽろ」


 よその猫の掲示板で、「猫の歯が抜けて…」という話題が、もちあがっていた。
 考えてみれば、セリューは、まだ乳歯である。
 先日のケンカで、乳歯ファイター・セリューの異名をもっている(笑)
 掲示板にかかれている月齢から考えると、
 セリューもそろそろ歯が抜ける頃だ。
 前猫・タマはお外で遊んでいたこともあって、乳歯は知らない間に抜けていた。
 セリューの歯は、絶対にGETしようともくろんでいるが、うまくいくだろうか。
 ごっくんとのんでしまって、いつのまにかうんちと一緒にでてしまっていたら
 もう、入手はできない。

 その日、私はいつものごとく、セリューと遊んでいた。
 プラスティック竿の先に、黄色いぽんぽんおもちゃがついていつやつ。
 セリューはかじりつき、とびつき、私の腕にも熱が入る。
 そのうち、セリューは遊ぶのをやめて舌を長く出し、口を、ちゃくちゃくさせていた。
 これは、何かを食べているしぐさだ。
 やばい。糸や段ボールか何かをまた食べてしまっているのか?
 あわてて、セリューをひっつかみ、あおむけにし、
 いやがって手足をじたじたさせるセリューを押さえ込んで口を開けた。

 と、血が見えた。
 ぎゃ。遊んでいて、どこか、口を切ってしまったのか?!
 あわてて、さらに押さえつけながら血の出所をさぐる。
 歯茎の一部からだ。どうしよう。口内炎の薬とかを薄めてつけたらいいのかな…?
 どきどきしながら対処を考えていると、ふと、いつもの光景と違うことに気がついた。
 口の反対側を確かめてみる。やはり、何か違う。
 は! 気がついた!! 歯がない!!
 歯が抜けて、血が出ているのだ!
 「歯は? 歯はどこ?!」
 自然に抜けた歯なら、消毒とかも必要ないし。セリューを膝からおろして
 歯の捜索に向かう。
 10分探して…みつからない。やっぱり、食べちゃったのかなぁ。
 あきらめて水でも飲もうと立ったとき、足下に赤いものが見えた。
 ああ、また、赤いわたぼこりでも、と思い。ふと拾った。
 堅い。
 なんだこれは? 物体を確認する。
 白い、とがった小さいものがひとつ。
 「歯だ! セリューの、歯がみつかった!! やったぁあーゲットォォ☆」
 夜中にも関わらず、叫んでしまった。ご近所のみなさんゴメンナサイ(爆)
 そのうち、小さくてかわいい瓶を買ってこよう。
 今は、とりあえずモモタブレット(ポスペの、モモのお菓子)の
 入れ物にいれておこう。
 他の歯も、ゲットできるかな。ふふふふふ。




・「おみやげv」

 私が新聞などを取りに出ると、セリューは玄関で座って待つ。
 そして、入ってくると「おみやげは? おみやげは?」と、催促によってくる。

 外に出ると、この季節、雑草だらけになっている場所には、虫が多い。
 そこから、ショウリョウバッタなどを、私がセリューにあげるのだ。
 まるで子供が帰ってきた親にねだるように、すり寄ってくる。
 セリューはそれをあまがみし、手でちょいちょいと楽しそうに
 飽きるまで、じゃれている。
 外に出していたら、きっとその辺の虫でじゃれているんだろうなぁ。
 なんとなく、心がちくちく。
 なので、あるとき、アゲハチョウをとってきてあげた。
 でも、実は、私はアゲハチョウにも愛情がある。(笑)
 アゲハの幼虫は、にゅっと出すあの角の臭いさえ、好きなのだ。
 部屋の中にはなしたアゲハは、天井の灯りへと飛んでいってしまい、
 セリューの手には届かない。
 なんとなく、ほっとしながらも
 アゲハ<セリューの図式ができているので、さわれないセリューの方が不憫になる。
 だっこをして、少しだけ、アゲハと遊ばせてあげた。
 アゲハは、もちろん、外に返す。
 捕まえてきた虫は、私の愛情の量によって
 外に生還できるかがきまってる。(笑)
 虫にとって、うちは恐怖の館かもしれない(笑)




・「野望ついえる」

 セリューの永久歯が生え始めてから、私は歯の様子をだいぶチェックしていた。
 だが、抜ける前に生えてきてしまったのだ。写真参照(セリュー写真の)。
 これじゃあ、二枚歯だ。なんとなく、カリカリが食べづらそうである。
 しかも、食べた後にいやがる口を開いて見てみると、二枚歯の間に
 カリカリが残っていたりしている。こりゃあ、虫歯になっちゃうかも。
 でも、無理に引っ張るわけにもいかないし。
 そうこうしているうちに、勝手に抜けてしまったらしい。
 犬歯は、1本しか入手できなかった。しくしく。
 きっと、食べちゃって、うんちになって出ちゃったんだろうな。
 うんちになっちゃったら、手出しできないものねぇ。
 しかも、いつのに出るのかわからないし。
 しょーがないや、とあきらめていた。
 しかし、ある日、部屋を歩いていると、何か踏んだ。
 「いたっ」
 私は、いつもの猫砂だと思っていたが
 (うちは、シリカ系を使っているので踏むと痛いのだ)
 足の裏にへばりついているので、拾ってみてみたら、歯だ。
 しかも、奥歯。3つくらいの山形だ。
 「やったーv 歯をゲットしたぞうーvv」
 その後、立て続けに、同じ奥歯の山形歯を2つ、合計3つゲットした。
 …でも、なんとなく、犬歯以外って、かわいくないのよね(笑)
 今は、ごそっと抜けた爪も、集めていたりしている(笑)
 タマの時にも集めていれば、形見にもなったのになぁ。




・「自由」

 セリューも、だいぶいろいろとわかってきたので、
 夜も、ケージから出してみることにした。
 私がベッドに入る…遠くから、ちりちりちり…と、鈴の音。
 そして、たぶん、靴下をくわえているであろう声が聞こえる。
 「うるる?」
 ああ、呼んでるよー。
 なんだか、そわそわして、私も気になってしょうがない。
 眠れないかも…。
 でも、そのうちうとうとしてくると、今度は
 ずだだだだだー!
 駆け回り、段ボールの上によじ登り、何かそこらのモノを落とす。
 どさっ。
 ううう、別の意味で、眠れない。
 猫は、夜行性というけれど、まさにそのとおり。
 中には、昼行性の猫もいるだろうけれども、セリューは夜行だ。
 これでもかと走り回り、たまには「うるる」とかわいく鳴き
 私の眠りを妨害した。
 もしかしたら、ケージから解放されて、はしゃぎすぎているのかもしれない。
 そうだ。そう考えよう。明日からは、安眠できるはず…。
 とんでもなかった。毎日が、こうである。
 そのうちに、私の方が慣れてきた(笑)
 私が寝てしまうと、そのうち、ベッドの下に潜り込んで寝ているらしい。
 そして、朝、起きる頃になると、私の顔の匂いを嗅いだり
 タオルケットでふみふみちゅぱちゅぱをしたりするのだ。
 これには、かわいいと思った!
 セリュー自身は、私が寝ていると思い、油断して甘えているらしい。
 先日、ふみふみしている時に、ふと、目をあけて
 (普段は、がまんしている(笑))
 「セリュー、おはようv」
 と、声をかけた。
 すると、目をまん丸くして、耳をピンと立てて
 「やば! みつかった!!」
 と、いう顔をしたのだ。その時しっぽが見えていれば
 きっと絶対ふくらんでいたに違いない。
 …しばらく、これで遊んでみよう(笑)




・「恐怖の白いもや」

 その日、私はいつものように起きたはずだった。しかし、どこか、空気が重い。
 夏の終わりの季節の変わり目だからというわけではない。
 何か、心に警鐘が響いているのだ。
 気を取り直し、居間へと向かった。

 カーテンの引かれている、まだ、薄暗い部屋。
 そこは…白い、もやが立ちこめているように見える。
 なんだっ!! これは?!
 私は、我が目を疑った。

 部屋は、縦横無尽に白い粉が、セリューの足跡と共に走っているのだ。
 「ひょうえー!!!!」
 その、粉の出所を確認する。
 …そういえば、昨日、お好み焼きとたこ焼きの粉を買ってきたんだったっけ。
 そして…それを、棚に入れずに、ビニール袋のまま、置いていたのだ。
 その粉には「エビ・カツオ風味」と、書かれている。
 猫にとっては、ごちそうの匂いである。
 しまったぁぁぁ!!
 後悔しても、もう、遅い。
 クッションに、本に、床に散らばっているすべてのモノに、
 白い粉がいい匂いをたてて化粧がほどこされている。
 美白もいいところかもしれない。
 そんなことを思いながら、ぞうきんで拭きまくる。
 最近、部屋がきれいだこと。しょっちゅう、ぞうきんで拭かれている気がする。
 でも、なんとなく、まだ、足の裏がざりざりする。
 ううう。今度から、きとんと棚の中にしまっておかなくては。
 考えてみれば、魚肉ソーセージも、毎朝起きると必ず棚から落ちていたな。
 ちゃんと、閉まる棚にいれなくちゃ、ダメなのねぇー。
 もう、過ぎたことなのでセリューはしかれない。
 何やってるの?とまん丸な目でのぞくセリューを後目に
 はあぁーと大きなため息をつくすず猫であった。


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